皆さんはテレビドラマ「岸辺のアルバム」をご存じでしょうか？
今から46年前、1977年に放映された昭和の古いテレビドラマです。当時、画期的なファミリードラマとして賞も取得した名作です。 原作・脚本は山田太一。 後に「ふぞろいのリンゴたち」が大ブームになるドラマ作家です。
先月まで日本映画専門チャンネルでやっているのを見つけて、懐かしかったので後半からですが改めて観ました。 あれ、こんなんだったっけ？と、再発見もありつつ、面白かったです。今でも色褪せない重厚なドラマがそこにはありました。
このドラマは1974年に発生した多摩川の堤防決壊の水害がきっかけで書かれたものです。 堤防のそばにあった多くの一軒家が濁流によって押し流され、ニュースで流れた衝撃的な映像を今でもよく覚えています。 そのように最後は流されてしまう家に住む家族が、このドラマの主人公です。
その家族は一般的なサラリーマンとその妻の夫婦二人、子供は大学生の長女と浪人生の長男という四人家族です。多摩川のそばに念願の一軒家を購入し、表向きは幸せそうに暮らしています。
しかし裏では、妻は不倫をし、長女は憧れたアメリカ人に裏切られレイプされ妊娠、中絶をし、夫は商社でアジア人女性を風俗商売の目的で輸入するという各自の秘密を抱えています。そしてその秘密を知ってしまった長男は、そんなインチキな家庭に嫌気がさし、最後は皆に各自の秘密を暴露しケンカをして家出してしまいます。
そんな不協和音が起こった家族。どうにかお互いに歩み寄って元に戻ろうとした矢先に大雨が降り、警報が出て学校に避難している中で、洪水で堤防が決壊するという悲劇が起きます。 避難するときに、夫は一番大事なものは、今までの家族を記録しているアルバムだと気づきます。どうにかアルバムは持ち出して、流されそうになって揺れる家に家族皆でサヨナラを声に出して言います。
水の引いた川の下流で家族は自分たちの家の残骸を見つけます。そんな残骸を見ながら改めて家族というものをお互いに確認しながらドラマは終わります。この後、家族がどうなったかは観ている人の想像に任せて。
それまでのファミリードラマが和気あいあいと楽しく、面白く家族を描くものが多かったのに対し、各人には裏の顔があること、そんなにいいことばかりではないことを突きつけたところがこのドラマのすごいところだと思います。
そして演じている役者もいいですね。特にいいのが妻役の八千草薫（やちぐさ かおる）。澄んだ顔立ちの美しい、けがれがない感じの方ですが、その女性が不倫をする、迷いがあるなかですが過ちを犯してしまう危うさ、またその後の戸惑う姿、なんとも言えないいい雰囲気が漂います。 不倫の相手の竹脇無我（たけわき むが）も、渋くていいですね。こんな男によろっときてしまう気持ちも分かります。
また夫役の杉浦直樹（すぎうら なおき）も、サラリーマン部長の仕事ぶりと、家庭内で家族とぎこちなくなってしまう父親、そして部下の女性に浮気しかけながら最後にふられる不甲斐なさなど色々な面が出ていて味があります。
長男と友達になる風吹ジュン（ふぶき じゅん）もその不良っぽさがいいですね。 あんな髪形の娘は今はみないなあ。 長男役の国広富之（くにひろ とみゆき）はこれがデビュー作とのこと。長女役は中田喜子（なかだ よしこ）。 二人ともいい演技でした。
それとオープニングがいいんでよね。ジャニス・イアンの美しいながらも少しもの悲しいメロディに多摩川の映像。心に残る名曲です。
そして、このドラマで多摩川の土手が重要な象徴ですね。
今回観ていて時代を感じたのは、普通に色々な場面でタバコを吸うこと、家の居間や喫茶店に灰皿がデンと中央にあること、また駅のホームにこげ茶色の木のベンチがあり、南武線もこれまたこげ茶色の古い車両で、「国鉄」という看板がありました。 昭和ですねえ。
私は山田太一のドラマや小説が好きです。「ふぞろいの林檎たち」シリーズはもちろん「早春スケッチブック」も大好きです。 社会に生きる色々な立場の人の苦悩や生き様を丁寧に描く方だと思います。
最近のドラマにはあまりファミリードラマはないですね。ミステリーや恋愛、若者の生き方を描いているものが多いように思います。 個人の主張が強い今の時代に家族はテーマになりにくいのでしょうか。 そんな現代ですが、こんな昭和のドラマを観るのもいいもんだなと思います。
「岸辺のアルバム」は、配信ではParaviで観られるようです。もし興味があったら観てみてはいかがでしょうか？
ではでは。
