あいしろう blog IMAGINE

想像してみよう。それは何をもたらす? この後どうなる?   ときに楽しい夢を。ときには厳しい視点で。 

「アナ雪」「ベイマックス」などのディズニーアニメの制作現場スペシャルを見て思ったこと。 

 NHKテレビで11月24日に放送された「魔法の映画はこうして生まれる ~ジョン・ラセターとディズニー・アニメーション~」というスペシャル番組は、テレビカメラが初めてスタジオ内部の詳細を撮影、放送したとのことで、今のディズニーアニメの制作現場を見ることができて面白い内容だった。

 ディズニーアニメの制作過程は、個人の創作を元に絵や効果等を付けていくという作業ではなく、集団の組織的運営でストーリーを練り上げ、作画、効果等もそれぞれ細分化された専門家チームで分担しながら進んでいくことが語られる。ストーリや細かい演出、動作も制作途中でも色々議論され、提案や採用を繰り返されながら作り上げられている。ストーリーの議論では、その該当作品のメインスタッフだけでなく、他の作品の要人も参加し、50人位の規模でミーティングする風景が映し出される。「ここの場面はこうすべきだ」、「その必要があるのか」等の議論をしていて、最後に誰かが「その場面をやめちゃえばいいじゃん」という提案をして締めくくられる。ストーリーや場面構成というものはアニメの要のところだが、それを個人や少人数ではなく、このような大人数で議論されていることは、私には新鮮な驚きだった。そこを仕切るのは、チーフ・クリエイティブ・オフィサーのジョン・ラセターピクサー・アニメーション・スタジオで有名な「トーイ・ストーリー」を造った有名アニメーターだ。ただあくまで彼は仕切るだけで、肝心なところには口を出すが、大部分は大人数で作り上げている感じだ。一つのエピソードとしてアナと雪の女王での成功例が挙げられる。王子がアナにキスをしようとしてしないシーンは、実は女性メンバーからの提案でキスするシーンからしないシーンに変更され、完成後、ラセター自身もそのシーンを見る女性観客のリアルなリアクションを見、女性の真意を捉えていると語る。このように観客の気持ちを取り入れようとする専門的作業によって細部に渡り、集団で念入りにストーリー、シーン、キャラクターの振舞が検討され、作り上げられていく。その結果としてのアナと雪の女王の大成功だ。そしてもうすぐ公開の「ベイマックス」も同じように作られた。

 また作画を行うツールのコンピューターを中心としたシステムは強力だ。細かい人の動作を描きだすアニメーターは、自分で動作とかしながら描き込んでいてすごいが、まだアナログ的な部分が残っているようでそこは日本のアニメーターとそれほど変わらない印象である。しかしコンピューターシステムはすごい。アニメのための専用システムとして人の細かい筋肉が入っていて、それらの動きをベースとした表情を作り出すもの、カメラの位置を自由に変更して映像を作り出せるものなど、特殊効果に特化したものなど、おそらく専用に構築してきたシステムなんだろう。ノウハウと時間、金のかかるこれらのシステムはなかなか太刀打ちできないのではないだろうか。

 ジョン・ラセターは、元々ディズニーにアニメーターとしていたのだがそこを一度クビになって、ピクサーでランプのCG短編アニメ「ルクソーJr」を制作し脚光を浴びる、そこから「トーイ・ストーリー」に繋がる、彼が宮崎駿を敬愛し、宮崎駿も彼を友人として、そしてCGが先走って暴走することを彼が抑えてるんだと称える、というエピソードが語られる。私は古い話だが80年代初頭頃にCGに可能性を感じていてNHKのニューセンター9時のオープニングCG(その当時最強だったクレイコンピューターを使ったニューセンター9時という文字が透過立体として映り込み、波紋等をもちながら動きまわるもの)を観て興奮していたのだが、「ルクソーJr」を見てCGが生きてきたと興奮したことを記憶している。そして「トーイ・ストーリー」はおもちゃのキャラクターが個性を持って本当に生きていてストーリーも面白い素晴らしい長編CGアニメ映画だった。今でも大好きな作品だ。ジョン・ラセターにとって今でも一番大切な宝物は「トーイ・ストーリー」のウッディの人形だそうだ。ここから全てが花開いたということで彼の想いが詰まっているのだろう。ここは想像だが「トーイ・ストーリー」という作品はジョン・ラセターや他の人の個人の構想、力が相当入ってるのではないか? そんな尖がったところを感じるのだ。


Pixar Animation- Luxo Jr. - YouTube


NC9 - YouTube

 「トーイ・ストーリー」は違う印象だが、今のディズニーのアニメは上述したように大企業による大きな組織的運営と大きなシステム機器を駆使して出来上がる作品だ。ふと自分がかかわった大企業の製品造りにも似てるなとも思った。そこでも構想から細かい仕様まで、集団で議論しながら専門チームが分担して仕上げて市場に発売した。そこの製品造りはある段階から尖がれなくなった。こうしたら客に受けるよねという集団の議論は、ときに凡庸に陥るリスクをはらむ。そこはディズニーの弱点だ。金やシステムでは勝てないとしても、まだまだ個人のクリエーターや小集団でも、ディズニーにはできない、いい作品を生み出すチャンスはあると思う。

 ディズニーでは完成後、一般公開前に制作関係者とその家族を招待して試写上映を行っているそうだ。それは私の企業では欠けていた部分で、羨ましかった。それをすれば皆、喜ぶし次へのやる気がでる。ディズニーのメンバーのやる気がある限り彼らのアニメはいいものができるだろう。しかし日本や他のアニメも頑張って欲しい。集団の議論ではできないような、新しいクリエイティビティ、興奮を期待したい。

 ではでは。 



トイ・ストーリー スペシャル・エディション [DVD]

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